2020年05月23日

2/22 マチネ 新国立劇場バレエ団「マノン」

珠玉のマノンでした。


芸術監督:大原永子
音楽:ジュール・マスネ
編曲:マーティン・イェーツ
振付:ケネス・マクミラン
美術・衣装:ピーター・ファーマー
照明:沢田祐二
監修:デボラ・マクミラン
ステージング:カール・バーネット、パトリシア・ルアンヌ・ヤーン

指揮:マーティン・イェーツ
管弦楽:東京交響楽団

マノン:米沢唯
デ・グリュー:ワディム・ムンタギロフ
レスコー:木下嘉人
ムッシューGM:中家正博
レスコーの愛人:木村優里
娼家のマダム:本島美和
物乞いのリーダー:福田圭吾
看守:貝川鐡夫


ワディム・ムンタギロフの客演が決まって、すごく楽しみにしていた公演でした。久々に奮発してS席わーい(嬉しい顔)

その期待に違わぬ素晴らしいマノンでした。上演後、1階席は納得のスタンディングオベーション。
無垢な米沢マノンのどうしようもない死、力強さもなくただ一途な、それ故にマノンを破滅させるムンタギロフのデ・グリュー…。また何度でも見たいと思う舞台でした。

米沢唯さん演じるマノンは、本当に無垢でピュアなマノンでした。無垢であるがゆえに善悪もない、ただ彼女がその時その時で素敵だと思ったものを選んでいく。その瞬間瞬間の結果として、デ・グリューの手を取りながらGMの宝石や毛皮に心を惹かれ高級娼婦になって、でも追いすがるデ・グリューを拒絶することもできずに両方のいいとこどりをしようと浅はかな企みをし、逮捕されて流刑地へ送られて看守に弄ばれて、ルイジアナの沼地に彷徨い死ぬしかなくなってしまう…。
無垢すぎて、故に道徳からもかけ離れたモラルの欠如した存在であるマノン。でも、彼女は自分が選択するべき場面では自分自身で選択しているな〜っていうのは感じました(例え兄レスコーのそそのかしがあったとしても)。デ・グリューの手を取ったのもマノン、彼を裏切ってムッシューGMの愛人になったのもマノン、デ・グリューを捨てきれず彼と行く道を選んだのもマノン、ルイジアナの沼地に逃げることを選んだのもマノン……。
自分自身の人生を自分自身で選んでいくというのは20世紀以降の女性の描き方だと思います。たとえ結果が破滅だとしても。
自我が乏しく状況に流されていくだけのように見えながら、マノンって決してそうじゃないのがとても魅力的なキャラクターだと思います。米沢さんのマノンは本当にどこまでもピュアで、だから破滅していくしかないというのが心底納得いく感じで、素晴らしいマノンでした。1幕、デ・グリューと寝室でイチャイチャするマノンは本当に幸せそうで可愛いし、2幕、男たちに傅かれて娼館の女王然と振る舞うマノンは良い意味で下品というかもうとにかく自信あふれる高級娼婦って感じで、一方でデ・グリューを捨てきれずに揺れるところに可憐さもあるし、3幕、流刑地の寄る辺なく頼りないマノンは守ってあげたくなるような魅力に溢れていて、とにかく素晴らしかった。沼地のパ・ド・ドゥでは、マノンは生きることを放棄しているのでなく、生きようとしているけれどどうしてももう生きることができないという命の抜け出していく弱々しさを感じて、まあマノンだから自業自得ではあるんだけど可哀想で応援したくなりました。デ・グリューと生きたかったよね、マノン…。
ワディム・ムンタギロフのデ・グリューは素晴らしい当たり役でした。長身、長い手足、ノーブルな佇まい、とバレエのヒーロー役にはぴったりで、とにかく華やか。バレエのデ・グリューは学生という設定で、金持ちのボンボンでもないし王子でもないし剣に秀でた騎士でもない。何にもない。最初から、マノンへの愛しか持っていない。それで、その愛を胸に身を引くということができないんですよね。愛人という道が道徳的に見て悪の道、というのもあるけど、マノンを金持ちの愛人としての社会的成功者の座から引きずり落としてでも自分の愛を受け入れさせたかった。それって本当に彼女への愛? 自分自身を愛しているだけでは? と、私は思わないでもないのですが、その一途さがデ・グリューの魅力なのは間違いないと思います。
ムンタギロフ演じるデ・グリューは、一目見た瞬間からマノンに熱烈な恋をしてしまって、どうしたってその火を鎮めることができない。みっともなく追いすがって情けない姿を晒してでも彼女を取り戻したい。それでレスコーの脅しもあり、彼女を取り戻したい一心でろくでもない企みに加担してしまう…。彼も可愛そうだけど、マノンを破滅に追い込んだのは間違いなく彼自身ですよね。デ・グリューの愛がもう一段高いところにあったら同じ結末にはならないはずです。彼がマノンを自分のものにしておきたいという欲望を抑えることができていたら。まあしょうがない。人間の感情なんて何でもかんでも理性的に処理できるものではないでしょうから。
米沢さんとムンタギロフさんのパートナーシップは本当に素晴らしく、マノンとデ・グリューの間に、この二人でなければこうならないという化学反応のような関係が生まれているようでした。

長くなってしまったのであとちょっと駆け足で。
レスコーの木下さんは単体で見るとよかったのですが、デ・グリューと絡むと体格差もあり、デ・グリューが負けてしまうのがちょっと不自然に感じる……。あと酔っ払いヴァリエーションンのところは持ち前の(と思われる)端正さが出ていたので、もっと崩して酔っ払い度が高くてもよいかも? と思いました。レスコーの荒んだ感じはよかったです。
レスコー愛人の木村さん。木村さんはニューイヤー・バレエの時の海賊のメドーラが正直私的にイマイチだったので、もしかしたらあんまり好きなタイプのダンサーではないのかなと思っていたのですが、レスコー愛人すごく良かったですよ。純クラ演目よりドラマティック演目の方が映える方なのかもしれないなあと思いました。艶やかで華があり、レスコーを好きな気持ちや、横暴なレスコーに「ちょっと〜」と思っているところなんかもよく伝わって来て、演技も踊りもよかったです。
あと、ムッシューGM役の中家さんと看守役の貝川さん。これらの役は役が役なんですが、おふたりとも体格が良いのもあってか、立っているだけで目を引き寄せられる華のある存在感でした。

はあ、マノンよかったなあ〜。見てから1ヶ月以上経ってしまいましたが(どころか3ヶ月…)、何度も反芻してしまう。マノンのお気に入りシーンは1幕の寝室のパ・ド・ドゥと3幕の沼地のパ・ド・ドゥ、あと瀕死のマノンの前に彼女の人生にかかわった人々の幻覚が走馬灯のように入れ代わり立ち代わり現れるというあのシーンなのですが、そのお気に入りシーンのどれもこれもが素晴らしい出来で、本当に大満足でした。
マノン、近いうちにまたやってほしいなぴかぴか(新しい)



posted by 綾瀬 at 15:29| Comment(0) | 雑記・バレエ
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