というわけでコジョカル様のガラ公演の感想です。公演直前のリハーサルで座長のコジョカル様が怪我をされて演目・演者が急遽変更となるなどトラブルもありましたが、急遽ドイツはハンブルクからは菅井円加さん、シュツットガルトからはエリサ・バデネスさんが参加してくれて、とても素敵な演技を見せてくれました。アリーナ・ソーモワさんが来日しなかったのにはちょっとグダグダの気配を感じないでもなかったですが…。
しかしこのガラ公演、当初はチケット取るかすっごく迷いました。座長のコジョカル始め、フリーデマン・フォーゲル、セルゲイ・ポルーニンといった大スターの出演が予告されており、いやあこれは見たい〜という思いもあったものの、会場がBunkamuraオーチャードホールなんだもの…。この劇場は私の天敵です。高い金を出そうが、安い金しか出すまいが、どこも平等に見づらい。大っ嫌い。オーチャードホールの見やすい席があったら教えてほしい。本当に。
と、オーチャードホールに対するヘイトが隠せないのですが、まあガラ公演だし端が見切れてもいっか〜と思い、3階サイド席のステージ寄り内側の席を取りました。まあ見づらいけど、ガラならぎりぎり許容範囲かな。見切れもちょっとといえばちょっとだし…。でも全幕物だったらやっぱこの席では見たくないな。見づらいんじゃ。見づらいんじゃ。
あと、今回3階席に初めて上がったのですが、サイドじゃなくて中央の席の一列目、の前にある謎のスペースは何なんだぜ? あれのせいで一列目の人絶対手すり邪魔じゃん? 行ってないけど2階席も多分同じだよね。絶対中央の席取らんとこ。と思いました。ほんとなんだあれ。緊急時の避難誘導路…としても無能な配置では?
結論として、やっぱりオーチャードホールで見やすい席は今回も見つかりませんでした。ガラならまあサイド内側ならギリ許容範囲…手すり邪魔だけど…端も(サイドだから当たり前だけど)見切れるけど…って感じ。
5月だったかな? のKバレエの海賊見たいと思ったけど、オーチャードホールだから行かないっス。
あ、そんなに嫌いなオーチャードホールなのに結局どうしてチケットを取ったかというと、推しのキム・キミンさんの出演が決まったからです。これは見なければ。オーチャードホールということも、苦渋の決断で、だ、妥協していい!!
アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト
第1部
伝説
振付:ジョン・クランコ
音楽:ヘンリク・ヴィエニャフスキ
キャスト:エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル
シュツットガルト組の演技。解説に、
>難易度の高い流麗なリフトを多用して詩情あふれる世界を構築し
と記載があったのですが、本当にリフトが流麗で美しくて、衣装をたなびかせてステージ上を縦横に駆けるという振付もあって、「流れ」を強く意識する作品でした。
停滞することなく美しいものが次々と生み出されていって、伝説の名にふさわしい威風堂々たるリフトなど、神々しさを感じるくらいでした。リフトされてフォーゲルの上に立つバデネスは本当に伝説的に格好良かったです。格調高く美しく、素晴らしい作品でした。
ヴァスラフより
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
キャスト:菅井円加
面白いコンテ。ニジンスキーの未完の作品をノイマイヤーがバレエ化した1幕物の作品からの抜粋のよう。もっと長く見たかった〜。
ニジンスキーらしい大地礼賛を感じさせるような動き、重々しさと神秘性があって素敵でした。いつか抜粋でなく全部見てみたいです。
ディアナとアクテオン
振付:アグリッピーナ・ワガノワ
音楽:チェーザレ・プーニ
キャスト:ナンシー・オスバルデストン、オシール・グオーネ
古典です。エスメラルダのディベルティスマンから。
演者のオスバルデストン、グオーネ、お二人を不勉強にして今回初めて知ったのですが、お二人とも素敵なダンサーでした。オスバルデストンはポワントで片足立ちになり両手を挙げて静止するという難技を見せ、グオーネも素早くブレない回転に高い跳躍などクラシックバレエらしい技量を発揮して、気迫溢れる演技で大いに会場を沸き立たせていました。お二人ともやったるでオラアッって感じで、好感が持てました。特にグオーネは舞台と体を大きく使ってダイナミックな演技を見せており、この1演目だけなんて勿体ない〜、コンテも見たい〜と思いました。ミュンヘンバレエ団のプリンシパルとのことなので、いつかドイツに行ったらミュンヘンバレエ団も見に行きたいな〜って思いました。
ドイツは…大変だね、ハンブルク、シュツットガルト、ベルリン、ミュンヘン…東西南北……。行くところいっぱい!
ABC
振付:エリック・ゴーティエ
音楽:フィリップ・カニヒト
キャスト:ヨハン・コボー
ちょっとコントっぽく、大喜利っぽい。と、当日の私のツイートに書いてありました。ABC、アルファベットに合わせて天の声(ナレーション)にあれやれこれやれ言われて、舞台上のコボーがそれを一生懸命演技するというコミカルな作品。と、コンセプト自体にギャグっぽいっていうか滑稽みがあるんだけど、パのひとつひとつの美しさや格好良さは健在で、すごく楽しんで観ておりました。
天の声がさ〜、結構無茶言うのよね・笑 言われる方は大変・笑笑
私は…コボー様のブラックスワン面白かったです。素晴らしいポールドブラ! でもわざと大仰にやってるでしょって感じで面白い! という。
ほんと休む間もなく次から次へと言われて、最後の方は普通にヴァリエーションが入ってくるから鬼のように踊らされておりました。面白かったです。
モノ・リサ
振付:イツィク・ガリリ
音楽コンセプト、作曲:トーマス・ヘフス、イツィク・ガリリ
キャスト:エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル
今回、どの演目が一番好きだったかっていうと、この「モノ・リサ」かこの後に演じられた「エディット」のどちらかかなって思っています。
アクロバティックでダイナミックで、かつ繊細というか、1ミリや0.1秒のズレが即演技の失敗に繋がるような、精密さを求められるスリリングな作品でした。
男女1対のダンサーが自らの肉体を使って、剣と剣の刃先がぶつかり合うように鋭く応酬を繰り広げます。手足の動きだけでも複雑なのにもちろん手足だけでなく体全体が大きく目まぐるしく動かされて、二人の体の位置も絶え間なく入れ替わり、次々に様々なシルエットが作り上げられて、一瞬毎にそれが変化していく、とてつもなく面白い振付でした。これを表現するのにどれほどの技量が必要か、見ているだけで息を飲んでダイエットになりそう(意味不明ですみません)。
そこまで上演時間が短い物でもなかったのですが、もっとずっと見ていたいと思っているうちに終わって、演じられている時間が何だか一瞬のように感じました。
凄まじい運動量と熱量でお気に入りの作品です。バデネスとフォーゲルの、卓抜し、磨き抜かれた技量に心底うっとりしてしまいました。
エディット
振付:ナンシー・オスバルデストン
音楽:エディット・ピアフ
キャスト:ナンシー・オスバルデストン
こちら、本人振付本人上演、で、世界初演だったのですがすごくお気に入りの作品です

こんな素敵な作品を日本で世界初演してくれるなんて本当に光栄だ。ありがとうありがとう…! そんでもってこういう優れた作品がどんどん紹介される国であってほしいな〜って思いました。
で、こちらの「エディット」。エディット・ピアフの「水に流して」に乗せて演じられました。このガラでは唯一のボーカル入りですね。「水に流して」の原題は、「私は決して後悔しない」というものだそうです。その原題の通り、様々な苦難に揉まれて心も体も引き絞られるようになりながら身を捩って踊る、その最中には苦しげに、つらそうにも見えるのですが、終盤に近付くにつれてどんどん清澄な境地が表れてくる踊りでした。
つらいことも悲しいことも沢山あったけれどこれが私の人生、その時にできる最大限のことをしてきた、悪くはなかった…という、こういう人生が送れたのであればそれはそれでよかったのだろう、人生の終わり方として、ある種の理想の一つであろう、という印象を受けました。
諦観ではなく悟りというか、切ないながらも爽やかさが残る作品で、色々なダンサーが色々なアプローチをできる作品でもあると思います。とてもよかったです。
海賊
振付:マリウス・プティパ
音楽:リッカルド・ドリゴ
キャスト:菅井円加、キム・キミン
ガラのお馴染み演目、海賊のアリとメドーラのGPDD。私はキム・キミン様推しなんですが、今回1年半ぶり?くらいに生で見て、すごくびっくりしました。
めっちゃ上手くなってない!!!!????
いや、元から超上手いですよ、当たり前だけど。マリインスキーのプリンシパルだし。だけど、ちょっと膝とか肘とか爪先とか、特に膝とか、気になることがあったんですよね。でも今回、全然、本当に1回も気にならない! どころか、腕も足も綺麗だなって思いました。すごい、すごいよー見る度に美しくなっていくキミン君!…。てか、マリインスキーらしい繊細さ、優美さも更に磨きがかかって、唯一無二の跳躍も健在で、本当に怖いものなしの素晴らしいダンサー


で、つい押しのキミン君のことばかりテンション高く語ってしまいましたが、菅井円加さん。すごいダンサーですね。軽やかで優美なメドーラ、可愛い! と思っているうちに、女性バレリーナ最大級の見せ場のグラン・フェッテ。これも軽やかに優美に回っていらしたんだけど、1回転の終盤でスピードが緩やかになるんですよね。一瞬、おバカな私は回り切れない…?って思っちゃったんですがそうじゃなくて、そこからまたスピードアップしてくるんって回るんですよね


これ、すごくないですか!? 回転スピードを自由自在に操れるんですか!?
キミン君と菅井さんのGPDDは、異なるバレエ団所属ながら共通する優美さや軽やかさがあって、相性が良いように感じました。楽しい、素敵な海賊でした。また見たいぞ!
第2部
マルグリットとアルマン
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フランツ・リスト
マルグリット:アリーナ・コジョカル
アルマン:セルゲイ・ポルーニン
アルマンの父:ヨハン・コボー
公爵:木村和夫
東京バレエ団 ほか
今回のガラ公演、Bプログラムを選んだのはこの「マルグリットとアルマン」を見たかったからなんですね〜。
で、どうだったかというと、ズコーって感じでした。
コジョカルが怪我の影響で省エネ気味なのはしょうがないとしても、ポルーニン全然踊れてないんだけど大丈夫…? って感じでした。重い重い。動きにキレがない。つまんなくて途中ちょっとウトウトしてしまいました。
ポルーニンの素晴らしい演技の動画って検索すればいくらでも出てくるので、ポルーニン出演の舞台を見に来る人って、そのレベルを期待してしまうと思います。私もそうです。で、これだったので、ほんと、申し訳ないですけど拍子抜けでした。これがポルーニンでなくて無名の新人さんとかだったら、すごいと思いますよ。でもポルーニンに期待していたレベルにははるかに届かず…って感じです。
で、このポルーニン演じるアルマンは、見たことのないタイプのアルマンでした。荒々しく、激しく、DV男だったので、こんなん家族のことがなくても病気じゃなくてもマルグリットは別れるべきと思います・笑
ただその荒々しさ、激しさはマルグリットへの愛ゆえで、彼女への愛が裏切られたと思ったからこその爆発的な感情の発露だというのは分かるのですが、それってやっぱり彼女を全然見ていなくて、自分の思いしか見えていないからですよね〜。若くて視野が狭いっていうか。まだいい男じゃないなって感じ。その役作り自体は、稀に見る分には結構悪くないと思いました(いつもこういうアルマンが見たいかっていうと、それは別)。劇中、一番アルマンの感情が昂るシーンがあって、札束をマルグリットの顔に思い切り叩き付けたんですよね。そこはポルーニン、コジョカル双方の演技も素晴らしく、私は良いなと思いました。マルグリットの愕然とした様子は本当に可哀想でしたし、アルマンはひどい奴ではあるけれど、彼には彼の知らない事情、彼の思いがあって、すれ違う二人がやっぱり可哀想で、アルマンの迫力にはこちらも打ち据えられたような心地がしました。ま、また見たいタイプのアルマンかどうかは別として…。
しかし、どんなに演技が良くても踊りがいまいちだとそちらの印象の方が強く残ってしまって何だかな〜な第2幕でした。当日の自分のTwitterを見たら、ポルーニンがこんなに踊れないならフォーゲルと代わってくれてよかったのにということが書いてあって、ひどい言い草と思いつつ、まあ我ながら本心だなと思います。