2020年最初のバレエ鑑賞は、キエフ・バレエの来日公演、「白鳥の湖」です。
原振付:マリウス・プティパ、レフ・イワノフ、フョードル・ロプホフ
振付/演出:ワレリー・コフトゥン
作曲:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
台本:ウラジミール・ベギチェフ、ワシリー・ゲリツェル
舞台美術:マリヤ・レヴィーツカ
指揮:オレクシィ・バクラン
管弦楽:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
オデット/オディール:エレーナ・フィリピエワ
ジークフリート王子:ニキータ・スハルコフ
ロットバルト:ヴィタリー・ネトルネンコ
王妃:クレーニャ・ノヴィコワ
パ・ド・トロワ:アレクサンドラ・パンチェンコ、アナスタシア・グルスカヤ、アンドリー・ガブリシキフ
大きな白鳥:アンナ・ボガティル、アナスタシア・グルスカヤ、エレーナ・ミスコ、アレクサンドラ・パンチェンコ
小さな白鳥:カテリーナ・カルチェンコ、カテリーナ・チュピナ、ユリア・ルビンツォーワ、タチアナ・ソコロワ
花嫁候補:アンナ・ボガティル、アナスタシア・グルスカヤ、エカテリーナ・クルク、アレクサンドラ・パンチェンコ
スペインの踊り:エレーナ・ミスコ、ナタリア・ヤクーシキナ、ミハイル・ドロボット、ウラジスラフ・ロマシェンコ
ナポリの踊り:アンドリー・ガブリシキフ
ハンガリーの踊り:ダニエラ・キペン、ドミトロ・チェボタル
※怪我によるキャスト変更があったような気がするようなしないような気がするのですが、記録が見当たらなかったので当日配布された配役表通りに記載しています。パンチェンコさんがムロムツェワさんに代わったような気が…気が……。違ってたらすみません。
白鳥の湖、特に深い思い入れもなく、そんなに積極的に見たいなーとも思っていない演目だったのですが、ウクライナの至宝フィリピエワ様のラスト・スワンということで、やっぱり見逃したくない〜と思いチケット購入。でも今回、別日のキャストでサラファーノフ・ノヴィコワご夫妻のゲスト回もあって、そっちも本当に見たかったんだ〜。しかし私の限られたおサラリーでは両方見るのはちょっと厳しい…、ただでさえ1月から3月までバレエ鑑賞予定ぎっちりだし…ということで、サラファーノフ・ノヴィコワご夫妻回は泣く泣く諦めました。しかしTwitterの感想とか見ると素晴らしい舞台だったようで、はあ毎日モヤシ食ってでも見に行けばよかったと後悔しています。
その私のお金のない話は置いておいて、フィリピエワ様のラスト・スワン。とてもとても心打たれる舞台でした。ほかの色々なバージョンの白鳥の湖も見たくなったし、キエフ・バレエのことも大好きになりました。
1幕
ジークフリート王子の成人の祝宴…の前振りの身内のどんちゃんのシーン。友人たちが王子を祝って踊り、王子もその輪の中に入って楽しく踊る。そうこうするうちに母王妃から花嫁を決めるよう言われ、「まだ結婚なんかしたくないし…」と鬱っぽくなる…というのが定番のような気もしますが、スハルコフ演じるこの王子はそんな鬱っぽい感じがしない・笑
若々しく向こう見ずで、花嫁を決めろと言われて鬱な気分よりも母王妃からもらった成人のお祝いの弓でヒャッハー狩りまくり! な感じがしました。
若く健康なくせにじめじめしてる王子より、(ちょっとおバカっぽいかもしれないけど)憂いを直視せず楽しい方に流される享楽的な王子というのもこれはこれで私はいいな〜って思いました

で、版によっては2幕にあたるであろう白鳥たちの登場シーンは、このまま1幕2場として続きました。
フィリピエワ様登場!
恋に落ちる王子! 驚いて逃げようとするオデット。でも二人が見つめ合った瞬間に思いが通じ合ってしまった、というのがはっきりと分かる素晴らしい演技でした。これって、どうして観客にそう伝わるのかな〜。舞台って不思議。ハッとするほど説得力のある恋の発現でした。すごくすごく印象的な一瞬。
これまで私は、王子がオデットに恋するのは分からなくない。だってすっごく可愛い姫が出てきたんだから! でもオデットが王子に一目で恋する理由はよく分からない。ジークフリートは職業:王子かもしれないけど、だからナニ? みたいに思ってたところがあったんですが(なんかひどい)、そういうのじゃないんだよ! ジークフリートにとってオデットは運命だったかもしれないけど、オデットにとってもジークフリートは運命だったんだよ! 何が好きとかどこがいいとか、そういうの関係ないんだよ、恋に落ちるには! って思いましたね。今回。
オデット以外の白鳥たちの踊りも端正で美しく、フォーメーションも綺麗で、楽しく見ているうちに夜明けがやって来て、オデットとジークフリートは離れ離れに。
そして2幕。ジークフリートの成人の祝宴の場面。みんな大好きディベルティスマン。今回の版は、スペイン団は悪魔ロットバルトの手下である悪のスペイン団バージョンでした。ディベルティスマンは盛り盛りなほど嬉しいタイプなのでポーランドがなかったのがちょっと寂しい。けど、悪のスペイン団は格好いいし(私は悪のスペイン団バージョン好きです)、ナポリもハンガリーもストレスなく見られる…って言うと、言い方が悪いんだけど、魅せるべきところをちゃんと魅せてくれる、楽しいディベルティスマンでした。せっかくのディベルティスマンが下手だったり振付がつまんなかったりするとイラっとしてしまうんですよね。ストレスなくいいぞいいぞーと思わせてくれるのは何気に貴重だと思います。そしてそういう貴重なディベルティスマンだと、本当に舞台全体の満足度も上がる。
ジークフリート王子の花嫁候補たちも可憐で可愛らしい踊りでした。もうちょっと長く踊ってくれてもいいのよと思うくらい。ジークフリートはオデットに夢中なので彼女たちには一片の興味も示さず。各国の姫君たちにそんな態度とって外交的に大丈夫か〜と心配になります。
そしてこの2幕の主役は悪の華オディール! というわけでフィリピエワ様のラストオディール登場!
オディールはオデットとは全く違う個性で、立ち姿一つとっても違うのに、ジークフリートはオデットだと思い込んでしまう。オディールが王子を誘惑する、その態度があまりに蠱惑的で、なんかもうそれに全て飲み込まれて理性的な物の考え方なんてできなくなってしまうというのも、なんかねー、分かる・笑
ジークフリートがオディールに近づこうとすれば割って入って、彼女と踊りたければ愛を誓えとロットバルトが煽るのもあって、遂にジークフリートはオディールに愛を誓ってしまう。
その瞬間、舞台は暗くなり、王子を心配してやって来たオデットの姿が浮かび上がる。
間違った相手に愛を誓ってしまったことに気づくジークフリート。
ざまあwwwwwwwwと大草原を生やして嘲笑するロットバルトとオディール。ここまであからさまな嘲笑をするバージョンってそんなに多くない気もする。とにかくロットバルトとオディールは闇に消え去り、失意のジークフリートもオデットを求めて王宮を飛び出していく。
私は白鳥の湖の中では、この王城パーティーのシーンが一番好きなんですよね〜。ディベルティスマンが沢山あるっていうのも好きな理由の一つだけど、やっぱりオディールの色っぽく、美しく、高慢な超絶テクニックを拝むのが楽しいっていうのが強い。
今回のフィリピエワ様はオディールの個性が非常に強く、分かりやすく、とても私好みで楽しかったです。グラン・フェッテは避け、ピケターンでしたが、オデットとしてこの後も踊りが沢山続くので仕方ないというか、グラン・フェッテ以上のその他の満足があったので、そんなにマイナスではありませんでした。
ま、オディール最大の見せ場の32回転はやっぱり見たかった…という思いもないわけではないですが。
さて、3幕。湖のほとりでオデットを待つ白鳥たちに、オデットはジークフリートの裏切りを告げる。おいジークフリートよかったな。ここがジゼルの世界だったらお前死ぬまで踊らされるぞ。といつも思うけど、白鳥たちは冷酷なウィリたちより優しく、一同は嘆き悲しむだけで「とりあえずジークフリート殺そう」と言う奴はいないのであった。
そんなこんなで命拾いしたジークフリートが駆け込んでくる。オデットに誠心誠意許しを乞うジークフリート。
私、この3幕のジークフリート、とても好きです。1幕ではなんかアホっぽさが残るジャリだった王子が恋を知って、自らの裏切りを悔いて立派な男性に成長したのを感じました。そしてこれはスハルコフさんの個性なのかな、とにかく自らの全てをオデットに捧げて許しを乞う、オデットのための自分である、というのが伝わってくるようでした。王子個人の見せ場となる踊りよりオデットを美しく見せるための踊りが多いんだけど、そのサポート自体が大変に心打つ彼の個性になっているような気がしました。もしかしたらフィリピエワという大スターのラスト・スワンに対する献身と、王子としてのオデットへの献身が重なって、私にそう見えたのかもしれません。
とにかく王子の心からの後悔がよく伝わってきて、悲しみながらもオデットが彼を許し、愛を誓い直すという流れが自然に感じられました。ここにミルタがいたら大変だぞお前。ってまた思うけど・笑
そしてこの3幕のオデットも、本当に素晴らしい踊りと演技でした。ポール・ド・ブラがとにかくすごい!! 本当に人間の腕? 白鳥の翼でなくて? と思う、複雑で滑らかで繊細な白鳥の動き。なんかねー、ラピュタは本当にあったんだ! 並みの、バレエで本当に白鳥になれるんだ! というような唯一無二のポール・ド・ブラでした。
これが見られただけでも本当にこの公演のチケットを取ってよかった。
そしてこのコフトゥン版の白鳥の湖は、愛によってロットバルトが倒され、二人は永遠に結ばれるというハッピーエンド版。ロットバルトは結構、立ち姿のすらっとした格好いいロットバルトでした。ある意味、不気味でおどろおどろしいロットバルトよりは御しやすい?かも?? と思わないでもないのですが、突然ロットバルトが負けるといつも拍子抜けしてしまうので、今回はどんなものかなとも思っていたのです。けど、そんなに違和感なしというか、ジークフリート頑張れ、お前の後悔はよく分かっている、だから頑張れーというモードに入っていたのもあって、命を懸けて巨悪に立ち向かうジークフリートが戦いの果てに遂に悪魔を倒した時にはほっとしました。
よかったねえオデットとジークフリート。
キエフ・バレエは、脇まで含めてある程度きちんと踊れる人が来日してくれて総じてレベルが高いと感じました。このちょっと前に見たミハイロフスキーは、正直ちょっといまいちなダンサーもメンバーに含まれていたので、踊りのレベルだけでいくとキエフ・バレエの方が上だなと感じました(でもミハイロフスキーの舞台もとっても楽しみました。ドゥアト監督が若手を大いに鍛えてくれることを期待します)。
ただ、予算の潤沢さはたぶんミハイロフスキーの方が…。衣装は両方とも可愛かったのですが、多分ミハイロフスキーの方がお金かかってそう。セットのゴージャスさは明らかに、ミハイロフスキーの方が上。という感じだったので。
キエフ・バレエは今年もまた来てくれるかな。なるべくお金をためて、いっぱい公演を見に行きたいと思います

いつかねえ、森の詩全幕を持ってきてほしいです。持ってきてくれなかったらウクライナに行くしか。