2018年06月21日

6/9 ソワレ K-BALLET COMPANY クレオパトラ(2)

前回の記事の続きです。

6/9(土) K-BALLET COMPANY「クレオパトラ」 ソワレの感想。
2幕から。

舞台はローマにあるカエサルの屋敷です。寝台の上にカエサルとクレオパトラが寝そべっており、早くも退廃と倦怠の気配が漂います。そうは言ってもふたりの間にはカエサリオンという子供が生まれていて、仲睦まじい家族の姿も描かれます。カエサル奥さんいるけどな。
クレオパトラに骨抜きにされ、人心を失いつつあるカエサルを諫めるために側近たちがやって来ますが、カエサルは態度を改めません。こりゃダメだ、てなわけでブルータスらはカエサルを暗殺することを決めます。
そしてさくっと暗殺。カエサルの白い装束の左胸から真っ赤な血が溢れ出します。

カエサルを失ったクレオパトラは悲嘆にくれます。この嘆きのシーンは、やっぱりクレオパトラは本当にカエサルを愛していたのかな、と思うようなシーンでした。子供までもうけ、長年実質的な夫婦のような時間を過ごすことで愛情が育まれたのか。女王というよりは普通の妻のようでした。エジプトの女王としてローマの庇護者を失ったことに対する嘆き、というだけには留まらない悲嘆だったかと思います。

さて、そこへやって来たるはカエサルの部下だったアントニウス。シュッとした格好いいアントニウスです。嘆くクレオパトラを引き起こし、踊る踊る口説く口説く。最初は「いやいやそんなカエサルが死んだばっかで口説かれても」とも思ったのですが、不思議と厭らしくなく、むしろアントニウスの思いがクレオパトラに通じればいいのに〜とアントニウスを応援する方に気持ちが傾く。多分栗山廉さん演じるアントニウスがシュッとしてて格好いいからなんじゃないでしょうか。普通こういう、悲しみに暮れるヒロインに言い寄るキャラクターってスケベでとにかく嫌な感じのポジになることが多い気がするんですが、このアントニウスは全然そんな感じがしない。

いいじゃんいいじゃんカエサルが死んだばっかでも。カエサルはクレオパトラにとってある種の運命の人ではあっただろうけど、運命の人がひとりとは限らなくてもいいじゃん。

しかしアントニウスと私の思いは通じず、クレオパトラは息子カエサリオンを連れてエジプトへ帰ってしまいます。
アントニウスは身のこなしがしなやかで王子様然としていて格好良かったんだけどな〜。勿体ない。でも王子様然としている分、どこかクレオパトラの敵ではないというか、格が違うというか、ちょっとそんな感じはある。女王と王子様じゃねえ。そりゃ。

んで、カエサルの後継者である後の皇帝、遅沢佑介さん演じるオクタヴィアヌスがアントニウスとの同盟関係を強化するため妹オクタヴィアとアントニウスとの婚姻を計画します。このオクタヴィアヌスもシュッとしてて格好いい。格好いいんだけど、アントニウスほど王子様然とした感じはしない。武人、かつ政治家って感じがより強い。
クレオパトラに惚れているアントニウスはオクタヴィアとの結婚には乗り気になれません。しかしオクタヴィアヌスに押し切られ、何だかんだで結婚は決まってしまいます。

このオクタヴィアが本当に可愛い。ダンサーは矢内千夏さん。可愛いっていうのは単に容姿がっていうのでなく、もしこの「クレオパトラがロマンティック/クラシック様式や新クラシック様式のバレエで、メインヒロインがクレオパトラでなくこのオクタヴィアだったら眠りやシンデレラのような物語になっていたのではないか」と思わせるような可愛さなのです。
アントニウスと踊るパドドゥは可憐で清純で本当に可愛らしい。乗り気じゃないアントニウスにお前いい加減にせえや、失礼やろと言いたくなる(さっきまでクレオパトラとの関係を推していたくせに)。
そして結婚が決まり、オクタヴィア渾身のグラン・フェッテ。舞台全てがオクタヴィアに集中し、飲み込まれるというか、オクタヴィアから放たれるオーラで包まれるというか、花弁が綻ぶような華やかな衣装も相俟って、この人は本当なら誰からも愛されずにはいられないヒロインだったのだ、というのが伝わってくる圧巻の踊りでした。
しかしこれがお伽噺を描くバレエならオクタヴィアはそのまま幸せをつかんだことでしょうが、「クレオパトラ」はそうではない。描かれるのは女王を中心とした歴史スペクタクルで、オクタヴィアがどんなに完璧に可愛らしいヒロインでも、彼女はアントニウスの心を掴むことはできない。もしふたりが結ばれていたらそれこそ物語の中の美男美女のカップルでしたでしょうに。可哀想…私が養ってあげたい。

ヘタレアントニウス(オクタヴィアに感情移入するあまり王子様キャラアントニウスもここではヘタレ呼ばわりせざるをえない)はきっぱりと結婚を断ることもできず、ずるずるとオクタヴィアと結婚してしまいます。クソヘタレめ。そのくせやっぱりクレオパトラを諦めきれず、新妻オクタヴィアを放置してクレオパトラを追いかけ出奔してします。はあ? お前舐めてんの??? という感情でいっぱいになります。やっぱ駄目だ王子様キャラは。アルブレヒトとかソロルとか数々のクズヘタレどもの姿が脳裏をよぎる(職業:王子じゃない人も含みますが)。
この、クソヘタレが花のように可愛らしい新妻を突き放してローマを後にするシーン、舞台の床に窓枠が黒く縁どられた青い照明が投げかけられ、すごく綺麗でした。暗い室内に青い色ガラスの色が外から差し込む光で映し出されているような感じね。ここのシーンが特に気に入りましたが、「クレオパトラ」は終始照明美術がとても美しくて素敵でした。

一方、クレオパトラは船上で気鬱に沈んでいました。案内人やお付きの侍女たちが彼女の気を引き立てようと色々心を配りますが、クレオパトラはそれを退け、気怠げに過ごしています。案内人の踊りはキレが良く、クレオパトラのために心を込めて踊られていたのがよく伝わったのですが、それでも女王の気鬱は晴れない。

そこへやって来たクソヘタレアントニウス。クレオパトラの前では彼はヘタレを卒業し、再び王子様然とした佇まいを見せます。そして歓喜するクレオパトラ。気鬱は一気に散じてしまいます。
この時のクレオパトラはアントニウスに本当に心を寄せていたように思えました。泣く泣くローマを後にしたけれど、クレオパトラはあの時本当はアントニウスに恋をしていたのではないか。本当は彼の傍にいたかったのではないか。そう思わせるようなふたりの逢瀬です。

ふたりが結ばれてよかったね、と思ったのも束の間、やはりクソヘタレアントニウスの裏切りは許されることではありません。オクタヴィアヌスが兵を率い、エジプトへ攻め込んできます。妹をコケにされた恨みを晴らす、というよりはローマを裏切った男を成敗する、という感じですね。

戦闘は終始ローマ優勢、アントニウスは追い詰められます。この戦闘のシーンは冗長っていうんじゃないですが、なんかこー、似たような振付でぐるぐる同じところ回ってるので、もっとブラッシュアップの余地があるかもしれません。まあローマ兵たちが駆け回ってる姿は嫌いってわけじゃないんですが。

そしていよいよオクタヴィアヌスに追い詰められたアントニウス。自分のやらかしてきたことのツケを払う時がやって来ました…と思いきや!
なんと、オクタヴィアヌスはアントニウスを殺そうとしてやめてしまいます。それは見逃してやろうっていうんじゃなく、お前なんてもう自分たちローマの敵ではない、殺す価値もない、と言わんばかりの振る舞いです。
ざまあみろヘタレという思いと、でも折角思い人と一緒になって幸福だったのに可哀想という思いと、まあ相反しますが複雑な感情が湧き起こります。

この辺のオクタヴィアヌスは、私はすごく格好良く魅力的に見えました。悪役というのでもないが、正義キャラともちょっと違う。言うならばこの人に付いていきたいと思うような感じ…。カリスマ性ってこういうことかしらん。格好いい役とダンサーでした。

そして敵にも見放された王子様アントニウスは屈辱に耐えきれず自決を決意。まあ自決以外ないですね。この状況では。王子様を引退して、どんな泥水を啜ってでも生き延びてクレオパトラを幸せにする、というタイプではなかったわけでして。

クレオパトラが駆け付けてくるものの、女王の腕の中でアントニウスは息を引き取ります。嘆き悲しみ、狂乱するクレオパトラ。カエサルを失った時とは違う悲しみの表現です。
この時の様子を見ても、私はクレオパトラが本心からアントニウスを愛したように思えました。そして多分カエサルよりも(受け取り手によって見方が違うと思うけど)。
ただアントニウスの敗北と死はクレオパトラのエジプト女王としての命脈の終わりでもありました。そのことをクレオパトラが思い出すのは、一頻り取り乱し、嘆き悲しんだ後というか、その中でのことだったように感じました。

ラスト、クレオパトラのテーマとも名付けたい、冒頭に演奏されたのと同じ主題曲が奏でられます。
取り乱すクレオパトラの傍にこれまで彼女の人生を通り過ぎていった死者たちが次々と現れ、冥界へ続く階段を上っていきます。死んでいたアントニウスも起き上がり、死者たちの列に連なります。
この時のクレオパトラは次第に落ち着きを取り戻し、やがて威風堂々たる女王の風格をも取り戻します。
女として、人間としての愛の終わりの嘆きの後に、運命の終わり、自らの破滅の時を迎え、世に並び立つ者のいない女王クレオパトラを取り戻したように見えました。このクレオパトラは人でなく神に近い聖性を放っているようでした。

死者たちが消えていった冥界へ、女王も階段を上ります。そして美しい影となって身が投げられ、女王の孤高の自死が描かれ、幕。

すごく見応えのある舞台でした。
そして普遍性のある舞台でもあったと思います。曲の編集、演出、振付、全てオリジナルでこれほどの大作を作り上げるのは本当に並大抵のことでないと思います。いやそんなん私に言われるまでもなく当たり前だけどさ。他になんて表現すればいいかよく分からん。
普遍性のある、つまりどこの誰に対してでも勝負できる作品だと思うので、よそのバレエ団からも買い付けに来られたりして、世界中で演じられるといいな〜なんて思いました。

Cleopatra4.JPG
あと最後に、おみやのドレッシング。何故こんないいものをいただけるのか? と思いましたが、このドレッシングの提供元であるシュガーレディという会社さんは今年からK-BALLETの団員の食事面のサポートをしておられるということで、そのコラボプロモーションの一環のようでした。ありがたくいただきます!
posted by 綾瀬 at 19:41| Comment(0) | 雑記・バレエ
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: