2019年11月03日

10/13 ソワレ K-BALLET COMPANY マダム・バタフライ(2)

で、2幕。ピンカートンは日本での任期が終わり、本国へと戻って既に数年。バタフライはピンカートンとの間に生まれた息子と、世話係のスズキと共に長崎の屋敷で彼の帰りを待つ。バタフライは断髪し、洋装を身に纏い、改宗までした夫への貞節を保ち続けていることを示す。
既に破局を予感させる雰囲気が舞台には漂っている。帰らない夫を恋い慕って幻想の彼とワルツを踊るバタフライ。だが冷静に立ち戻れば夫はおらず、彼の軍帽だけが残されている。

この後はしばらくマイムのシーンが続きます。マイムって、舞台にとって重要なことだと思うし、演者は丁寧に演技していたと思うけど、連続するせいか、この辺からどうも退屈で…。
う〜ん、やっぱりなんか、それだけでなく、どうも薄い感じがしました。バタフライは張り詰めた緊張感があって、彼女自身破局を予感していたのではないかと私は感じましたが、武家の娘としての誇り高さのようなものは特に伝わらず。スズキは、バタフライのための舞台装置としてのみの存在かな。彼女自身の思いはあまり分からなかった。後で出てくるピンカートン夫妻来訪のシーンでスズキ怒りのヴァリエーションがあってもいいくらい、などとも思ったり。
シャープレスは人間として誠実であろうという感じが佇まいからもしてよかったです。

立派な軍人となり、バタフライに求婚しにくるヤマドリ。息子の存在を目にしてぎょっとするあたり、リアルでよい。で、大した葛藤も見せず、彼は舞台から退場。え〜惜しい! と思った。大和和紀先生の中編にレディーミツコっていう傑作があって、もちろんこれはクーデンホーフミツコ伯爵夫人の漫画です。奇しくもバタフライと同じ、外国人男性と結婚した明治期の女性の話。バタフライと違ってミツコは妾でなく正妻だけど。ミツコが夫、クーデンホーフ=カレルギー伯爵の死後、一族と対立しながらオーストリアで子供を抱えて領地経営に奔走するところで、一度だけロマンスが生まれかけて、燃え上がる前に消えてしまうのよね。名前忘れたけど、誠実な学者肌の男性が、日本人であるミツコをよく支えて、お互い仄かな恋心を抱いてしまうという。でもそれが社交界の噂になりかけ、自分の存在がミツコのためにならないとよく理解している彼は自ら外国へ渡って身を引く。彼はミツコへの愛と尊敬のために身を引くわけで、ミツコもそれを分かっている。というかなり切ないくだり。
ヤマドリは全然、この男性(名前忘れてしまったが…)に及ばない。さくっと退場しちゃうしね。この男性くらいのドラマを見せてくれたらよかったのに〜! などと、この辺は舞台を見ながらレディーミツコを思い出していたのでした。
ついでにミツコの夫カレルギー伯爵は、日本から帰国しなければならなくなった時身を引こうとしたミツコを引き留めてオーストリア・ハンガリー二重帝国に連れていくんだよね〜。ヨーロッパに渡ってからのミツコは想像を絶する苦労をするわけではあるけど、バタフライを単なる現地妻としてのみ愛し、その通りにのみ扱ったピンカートンとは人間が違うっていうか。ピンカートンはそういう役割だけどさ。

で、大砲の音が鳴り響き、薄くて退屈なシーンがようやく終わります。おーやっとピンカートン帰ってきたか。というわけで2幕2場。彼を迎えるため庭へ走り出るバタフライ。が、ピンカートンは何と正妻ケイトを伴っていた。バタフライの息子を連れにきたのですね。ケイトは1幕の時の溌溂とした若々しさはなりを潜め、押しも押されもせぬ正妻といった、威儀を正した様子でバタフライに接します。バタフライに感情移入していると、ケイトは憎たらしい役だと思うんだけど、私は今回はあまりそう感じず。彼女も婚約者に裏切られた身の上だしね。そんで、別に大和和紀先生の話の続きじゃないんだけど、源氏物語で言えばケイトは紫の上でバタフライは明石の君で、夫が他所に作った子供を引き取る側の正妻には正妻の、血のにじむような葛藤があるのを我々は想像できるわけでもありまして。悪いのは全部ピンカートン!

ケイトが息子を連れて行くのを、地面にひれ伏したまま送るバタフライ。キョドるピンカートン。というかこいつは再登場してからずっとキョドりっぱなしで、堂々としたケイトとの対比もあり、ほんとアカン奴だなって感じ。バレエ界のアカン奴シリーズでアルブレヒトやソロルといった歴戦の猛者がいると思うんだけど、こいつらには恋人を裏切った後それぞれ思いを発露させる踊りがあるから、見る側もキャラクターの好き嫌いはあるにせよ見所があると思うんですが。でもピンカートンはキョドってるだけで、もっと踊ってもよかったのでは? という感じ。
やがてケイトもピンカートンも、その他全てが舞台から消え去って行っても、まだじっとひれ伏したまま動かないバタフライからは彼女の悲しみが伝わりすぎるほどに伝わって来て、劇場内が緊張したような気がしました。

でも〜、なんかここに至るまでに大分退屈モードだった私は、すっかり集中力をなくしてしまって、感情移入もそんなにできなくて、なんせバタフライのこと「頭ヤバい子かな」って思ってるからね…、自分で書いててて、「まだ思ってんのかよ!」ってびっくりするけどね…。
振袖を翻して、バタフライが最後の踊りを踊る。彼女は何を思って踊っているんだろう。裏切られた愛への怒りはなく、悲しみか。というと、悲しみばかりというのもいまいちぴったりこない。ここで語られたのは彼女の矜持なのかなあ。なんて考えつつ、やっぱ袖が邪魔、と思うのであった。そして袖が邪魔で踊りに集中できず(袖だけが原因じゃないけど)、踊りのここが良かったとかここがいまいちだったとか、そういう印象も残っていない。

ラスト。幼い息子がバタフライを求めて戻ってくる。そして(1)で書いたとおり、バタフライは彼に目隠しをして彼の目の前で父の短剣によって自害する。短剣は息子の手に渡り、彼は駆け出していく。

ラスト、舞台としては美しい場面だったんですよね。でも息子にそんな呪いはかけたくないよー。誇り高い武家の娘なら、父から受け継いだ呪いは断ち切って、自分で終わりにしてほしいよー。それが自害するより何より本当の強さでは?
というわけで舞台としては美しくとも私の感情としては釈然としないまま、終幕。

私、そんなにバレエに詳しいわけでもないし審美眼があるわけでもないんで恐縮ですが、踊りのシーンが少なくて(特に2幕)、踊りもいまいちなところがちょくちょくあって、正直あんまり面白くなかった。ピンカートンとケイトのPDD、ピンカートンとバタフライのPDDは気に入りましたが。これはピンカートン演じる山本雅也さんの波長が私に合ったということかも。
そんなわけで、一番良かったのはオーケストラという結論になってしまいましたとさ。

Kバレエって、他のカンパニーの公演よりちょっとお値段お高めなんですよね。12,000円(たぶん)払ってこれか〜って、舞台終わったときは正直思っちゃった。今回パンフレットも購入していて、これも3,000円もしたし。いや、嫌なら見るなよ、買うなよっていうのは正論だと思うけど。
マダム・バタフライについては、今後余程のブラッシュアップがなければもう見ないと思います。
でも、舞台って見る側のコンディションも重要だから、今日の私でなければまた違う楽しみ方ができたのかなあ。

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前回の記事で貼るの忘れた。3,000円のパンフレット。浮き出し箔+フランス製本と装丁凝ってるけど、装丁凝らなくていいから少しでも値段下がると嬉しい。装丁まで含めてひとつの作品というのはよく理解してはいますが…。クレオパトラの時の2,500円も結構高いな〜って思ったけど、でもクレオパトラは舞台の内容が気に入ったのでね。いや、でも、2,000円くらいだったらやっぱ嬉しいな。ケチ臭いことばっか言ってますが。

posted by 綾瀬 at 01:29| Comment(0) | 雑記・バレエ