2019年10月27日

10/13 ソワレ K-BALLET COMPANY マダム・バタフライ(1)

去る10/13にKバレエカンパニーの「マダム・バタフライ」を見てきました。
最初に書いておきますが、あまりポジティブじゃなく、ネガティブな記述の多い感想です。そういう感想読むと凹んじゃうな〜という方は他の記事に飛んでくださいませ。

さて、この公演の前後は大型台風が日本列島を直撃するということで、かなり開催が危ぶまれた状況でした。実際、この前日や、同じ13日でもマチネの回は残念ながら上演中止ということになってしまっています。上演のために努力してきたカンパニーの方々や楽しみにしていた観客の方々には本当に残念なことです。私は幸い、ソワレの時間帯までには雨も止み、首都圏の公共交通機関もだいぶ回復してきていたので、帰宅難民になることもなかろうと思い、東京文化会館へ向かいました。
でも電車のダイヤが乱れていると思い、早めに行ったら全く乱れておらず、予想外に早く着きすぎてしまったのでマルイで買い物などして余計なお金をつかってしまったのでした。どうでもいい情報。

さて、今回は東京文化会館、3階席右側1列目での観覧でした。3階の正面席なら今まで何度か見たことがあるのですが、右側の席は初めてです。どれくらい見づらいかな? と思っていたのですが、予想外に見やすくてよかったです。私はどうも、端が多少見切れても舞台に近い席のほうがストレスなく見られるみたいです。まあ首は疲れますけどね。やっぱり帰った後、数日間首が痛くて、マッサージクッション大活躍でした。横向きにならないで済むような、新国立劇場オペラハウスみたいな席の向きがいいです。建て替えの際は是非ご考慮いただきたい。
そんなこんなで、予算不足の時のバレエ鑑賞には3階の左右席1列目なんかも結構いいな〜と思いました。高いところが苦手なので、4階、5階は試したことないです。3階も本当はちょっと怖い。

で、今回の「マダム・バタフライ」ですが、Kバレエカンパニーの完全新作グランドバレエです。
勿論、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」に着想を得た作品で、大まかな筋はそれに則ったものですが、そうは言ってもディテールには大分独自の創作が加えられていました。

芸術監督/演出/振付/台本:熊川哲也
原作:ジョン・ルーサー・ロング
音楽:ジャコモ・プッチーニ、アントニン・ドヴォルザーク
舞台美術:ダニエル・オストリング
衣装:前田文子
照明デザイン:足立恒
指揮:井田勝大
演奏:シアターオーケストラトーキョー

蝶々夫人:成田紗弥
ピンカートン:山本雅也
スズキ:前田真由子
ボンゾウ:杉野慧
ゴロー:伊坂文月
花魁:中村祥子
ヤマドリ:高橋裕哉
ケイト:浅野真由香
シャープレス:スチュアート・キャシディ


新作のグランドバレエを作ろうという気概とか、実際に作り上げてしまう実力とか、Kバレエのそういうところ、本当にすごいと思います。色々なバレエ団で色々な取り組みをしていると思いますが、完全新作の全幕物を作れるところはそうそうないかと。

舞台の幕には和装と洋装の二面性を持った女性の肖像(とても秀逸!)が日本画風の画風で描かれています。すごくドキドキしながら幕が上がるのを待っていました。
そして幕が上がり、プロローグが始まります。全体に黒く沈み込んだ舞台に、白装束の男性が進み出てくる。彼はバタフライの実父で、(オペラだと西南戦争に加担した罪を得て)切腹によって自害しなければならない立場に追いやられてしまう。そしていざ切腹に臨む男性の傍らに立ち尽くす目隠しをされた少女、未来のバタフライ。彼女の呆然と、寄る辺なく立ち尽くす姿に、見ている側も否応なく緊張してしまいます。切腹によって命果てた父の短刀は少女の手に渡り、彼女はいつの間にか舞台に現れていた格子とその向こう側に蠢く苦界の少女たちの元へ走り寄って、この後の彼女の運命が物語られます。
ここはすごい迫力でした。ドキドキしちゃったね。

そしていきなり結末のことを言うけど、これはこの血族に降りかかる呪いの物語だった。
何故ならバタフライもまた父の短刀で自害する。その傍らにはバタフライの息子が目隠しをして立たされている。バタフライの命が果てた後、その短刀は息子の手に渡る。息子は短刀を手に駆け出していく。
呪い以外の何物でもない。自分が命を絶つほどつらい思いをしたのなら、息子にはそんな思いはさせたくないはずだろうに、バタフライの父がバタフライに呪いを残したようにバタフライは息子に呪いを残していく。
バタフライからピンカートンへの愛の絶唱はこの結末の前で呪いに変わり、その呪いを受け継いだ息子は母を殺した父に、養母に、アメリカに復讐するのだろうか、それとも彼も呪いの前に膝を屈して自ら死を選ぶのだろうか、いずれにせよ陰惨な未来が想起され、この後つらつら書くけど、正直バレエとしては気に入らないところがいっぱいあったんだけど、私はこの呪いの観点からのプロローグと結末は結構好きなのだ。親としては最低だけど。

プロローグが終わり、1幕1場はこの熊哲版マダム・バタフライのオリジナル場面。新人の水兵たちの最終訓練と、彼らの教官であるピンカートン、その婚約者ケイトや友人たちの華やかな踊りが続きます。いかにもグランドバレエの始まりにふさわしい踊りの連続、ではあるんですけど。
正直に言っちゃいますけど、水兵たちの踊り、下手じゃありませんでした? 音外してる人はいるし、全然跳べてないし、学芸会かなって思っちゃった。正直びっくり。
ただ、ピンカートンはさすがの踊り。登場時のソロは特に音楽性の高さと踊りのしなやかな力強さがとても素敵でした。ピンカートンが魅力的な男性であることが伝わってきました。
そしてケイトは、この場面があるから後の場面で観客は彼女を憎まないで済むのだと思えるような、明るくて楽しげな女性でした。ピンカートンとケイトのPDDはふたりの明るい交際関係を反映したような軽やかな踊りで、特にリフトは素敵でした。この時の二人には全く情念らしいものはなくて(そりゃそうだろう)、もしかしたら清らかな? 交際関係なのかなと感じました。この時代のアメリカの男女関係っていうのは、どうなんでしょうか。結婚するまで清らかなのが普通かな? 明るくて楽しげで、未来に何の不安も思い描いていない若々しいカップルで、重みとかは全然ないのね。そこがいいです。
ケイトの友人たちがやって来て、水兵たちと華やかな群舞を繰り広げるシーンは、本当に華々しくて楽しく、よかったです。ケイトの友人たちの中では、青みの強いブルーグリーンみたいな色のドレスの女性がひときわ華やかに、体を大きく使って踊っていて目を引かれました。私人間の顔が覚えられず、覚えてもあまり区別がつかないタイプなので、すみませんがどなた様かお名前は分かりません…。

で、1幕2場。ピンカートンはアメリカを離れ、遠い日本、長崎へ赴任します。長崎には遊郭があり、舞台上には左右に赤く塗られた張見世の格子が立ち並び、灯篭や提灯が妖艶な夜の空気を作り出しています。
ここも熊哲版マダム・バタフライオリジナルの場面ですが、この遊郭でピンカートンとバタフライは出会います。でも、二人が出会う前に物珍しげに遊郭をひやかすピンカートンらアメリカ海軍士官たちや、苦界に落ちたバタフライを探す叔父ボンゾウ、それから物語に直接は関係しませんが、美しい花魁道中の様子などが描かれます。
花魁道中は、本当に美しかったです。バレエの技法で、外八文字の動きを表現する振り付けの妙を存分に味わい…ました、と言いたいところですが、3階席右側からだと取り巻きの振袖新造たちに遮られてしまって花魁の足元はあんまりよく見えませんでした^^;
まあしょうがない。でも、1度ははっきり、遮るものなく花魁の足元が見えて、本当に素敵だっただけにもっと見たかったな〜と思ってしまう。
で、ここの花魁と、彼女を取り巻く振袖新造さんたちの衣装がとても素敵なのです。腕の動きが見えるように袖は透け感のある生地で作られています。花魁は薄紫を基調とした振袖(花魁が着てるのって振袖なんだろうか? 振袖以外の着物の種類だったらすんません)、袴は紅色、帯は金銀、新造さんたちの振袖は薄紅色のグラデーション、袴は紅色、帯は若草色、と何とも艶やかで美しい色合いで、袖があるからそれがひらひらと舞って、照明の色彩によってそれらの色も変化して、本当に夢幻のような万華鏡のような美しさでした。

今書いていて、この辺までは私、あまり不満もなく(ちょっとはあった)楽しんでたんだな〜と思います。

この遊郭のシーン、ここで主人公のバタフライが登場します。彼女は桜の小枝を手に通りを走り、花魁にぶつかって彼女を転倒させてしまいます。オイオイこりゃどんだけ謝ったところで折檻だなと思いつつ見守っていますが、バタフライは気後れしたようにちょっと小首を傾げるようなちょっとおじぎをするような、控えめな謝罪の態度を示すのみ。おいおいおい。自分のせいで人を転ばせたんなら助け起こす素振りくらい見せんかい。この子もしかしてちょっと頭ヤバい子かな。と咄嗟に思ってしまい、この時思った「ちょっと頭ヤバい子かな」がその後もずっと私の中で尾を引くことに…。

で、花魁は自分で立ち上がり、舞台の後方へ。無邪気に踊るバタフライ。やべえな。ちょっと頭ヤバい子かな。彼女のその様子が気に入らず、自分の取り巻きにやらせればいいのに何故か自らバタフライを突き飛ばしに行く花魁。そして花魁ほどの高位の遊女が自らの手でやりにいくのが納得いかない私。でももっと納得のいかない、人を転ばせておきながらちょっと頭下げて後はもう何事もなかったかのように無邪気に踊るバタフライ。頭ヤバい子やん。

そうこうするうちに、叔父ボンゾウがバタフライを見つけ出す。彼女を乱暴に連れ戻そうとするボンゾウ。彼女も好きで苦界に落ちたわけではないんだろうからお金を払って身請けするしかないだろうにこのおっさんどうするつもりやねん。金あんのか? と思う私。おっさん呼ばわりしていますが、ボンゾウは剣術の達人だしく、時々出てくる刀を抜くシーンはさすがの格好良さでした。
結局ボンゾウは退出し、しょんぼりするバタフライに、彼女が落とした桜の小枝を差し出すピンカートン。でも、バタフライは逆に、彼にその桜の小枝をプレゼント。この時のバタフライの踊りは恥じらいや少女らしさや無垢さがとっても可愛らしくて、私がピンカートンだったとしてももうずっきゅーんな感じですが、まあ頭ヤバい子かなって思ってるからさ、今は……。
斡旋屋たちの勧めもあり、ずっきゅーんなピンカートンはバタフライを娶ることに決めます。

で、3場。ピンカートンの長崎の家の庭。ピンカートンとバタフライの祝言が行われます。ここのセットが私、意味が分かんないんだけど。っていうのは、ここは庭なんですよね。屋外で、セットもそれとしてつくられています。でも、やってることが半分くらい、「それ室内でやることでは?」と思うことで。バタフライとピンカートンが互いに三つ指付くシーンとか、バタフライが嫁入り道具を夫であるピンカートンに披露するマイムとか、結婚を祝してのワルツ(でも日本人は踊れない、というコミカルな踊り)とかがあるんだけど、それ、普通室内でやりません? 庭先でやんないでしょ…。ワルツはまあ、野外ウェディングだとすると、屋外でもいいけど。それが気になって、なんかいまいち集中できない。

それに2場では美しく思えた着物の衣装が、白無垢だと肌着みたいに見えてしまって、なんだかだらしなくって言うとさすがに言いすぎなんだけど、とにかくあまり美しく思えなかった。あと、これ言うの迷うんだけど、袖がさあ。振袖部分が。蝶々の羽が仮託されていると思うし、日本を舞台とする以上、着物の表現は必要だと思うんだけど、この場面ではバレリーナの美しい体の動きを見るのには、ごめん、邪魔に感じちゃったよ…。

ま、とにかくピンカートンとバタフライは結ばれます。バタフライはキリスト教に改宗までしてしまう。激怒したボンゾウが乗り込んできたり何だりもありますが、とにかく祝言は完遂され、ふたりは晴れてめおとに。とはいえピンカートンからすればあくまで遊びの結婚、本当の結婚ではなくて、単なる現地妻。一方、改宗までしたバタフライはそんなことには気づかない。本当の愛によって結ばれたと思う浅はかさ。この浅はかさで彼女は不幸に突き進んでいくわけだけど、この婚儀の終盤で出てくるふたりのPDDは美しく、仮初めでも遊びでも二人が愛によって結び合わされたということが伝わってきました。
仮初めでも本当の愛。難しいテーマですね。

この1幕3場も次から次へと踊りが繰り広げられて、そういう意味では楽しかったけど、特に見どころのある踊りはなかったかなーって感じ。ピンカートンとバタフライのPDDくらいかな。あと、前述の、ワルツが踊れない日本人たち。開き直って盆踊りする奴までいる始末で、単純に面白いです。

ただ、主人公カップルの他には遊郭の遣りて(バタフライの結婚に合わせてバタフライの世話係に転職)のスズキはきびきびと端正に踊っていましたが、ここも取り巻きのバタフライの友人たちの踊りがなんかいまいち。特に傘の踊りは、もたもたしてませんでした? ぶつかりそうになったのか、それを避けるためなのか、なんかキマってなかった。

「マダム・バタフライ」って、全体的に振り付けがすごく難しいのかも?

あ、スズキの衣装はやっぱり和服でしたが、よかったですね。踊りの邪魔にも感じませんでした。白無垢が私的にいまいちだったのはなんでかなあ〜。白いドレスの踊り(ジュリエットとかマノンとか)、嫌いじゃないんだけど。白いドレスには袖がない(か、あっても腕にぴったりくっついている)から…?

長くなってきたので2幕は次の記事で書きます。

posted by 綾瀬 at 22:41| Comment(0) | 雑記・バレエ