2019年01月30日

ベルギー旅6日目(6) メムリンク美術館へやって来ました(5)

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ベンチがなかったので黙々と見学に戻ります。こちらもメムリンクの作品(だと思う)。詳しいことはよく分からないけど、多分聖十字架伝説を描いた祭壇画です。
聖十字架伝説とは、13世紀に成立した「黄金伝説」というキリスト教の聖人たちの伝説を集めた書物の中に収められている伝説で、この本は現代人の目から見るとかなりぶっ飛びーな感じの話が多く、まともに読んでいくと史実とのつじつまの合わなさに頭が混乱してくるんですが、そうは言っても中世では広く読まれていたようです。
で、聖十字伝説は、キリストが架けられた十字架にまつわるかなり大河ファンタジーな伝説です。十字架の辿ってきた歴史が、アダムとイブの時代からキリストの磔刑後、何と7世紀の東ローマ皇帝ヘラクレイオス1世の時代に至るまでの長期に渡って物語られています。本当に聖書準拠なのかは私にはよく分かりませんが…。

それはさておき、この祭壇画で描かれているのは一連の聖十字架伝説の中でもクライマックス的な場面です。向かって左側は、前述の東ローマ皇帝ヘラクレイオス1世が宿敵ササーン朝ペルシア帝国皇帝ホスロー2世との戦いに勝利し、奪われていた聖十字架を奪還して華々しくエルサレムに凱旋しようとしたところ、石が崩れてきて城門が閉ざされ、入城を果たせなかったというところ。これは「イエス・キリストはかつてそんなキラキラ着飾って馬に乗ってエルサレムに入ったりしませんでしたよ」という天からの戒めだそうで、天使から注意を受けたヘラクレイオス1世は、向かって右側のパネルのように、馬を降り、装飾品や肌着以外の衣服を脱ぎ捨てて聖十字架を掲げたところ、門を閉ざしていた石は元に戻って無事エルサレムへの入城を果たせたとのこと。
あんたらのために十字架を取り戻して戦争から疲れて帰ってきた一行を温かく迎えてあげるくらいのことできんのかね…と思う現代非キリスト教徒の私であった。でもそうやって為政者が調子に乗るとロクなことがないので、為政者は謙虚であれという戒めには良い説話であるとも思います。
ところでヘラクレイオス1世のライバルホスロー2世はイスラム化される前の最後のオリエント皇帝で、ビザンツの皇女シーリーンとの恋物語の伝説でも知られる何かロマンチックな皇帝です。

文字ばっか。とっとと次へ進みましょー。

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こちらもお馴染みキリスト降誕を描いた3連祭壇画。作者が分からん…。お分かりになる方は教えてください。

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古い時代のものと思われる、天使を描いた壁画。主線を全部黒で描く漫画チックなタッチ。素朴な絵柄で、言い換えればデッサン狂いが目立つ。宗教画特有のデフォルメとも違うこういう壁画は、当時のプロフェッショナルが手掛けたものなのか、プロでない人が一生懸命描いたものなのか、どうなんでしょうかねえ。まあもし素人が描いているのであれば、これだけ描けてれば十分だと思いますが。

などと人様の描いた絵を遠回しに下手だなーと思いながら(私は絵がとても下手です)進んでいくうちに、聖ウルスラの聖遺物箱に並ぶ至宝、メムリンク美術館二つ目の目玉作品が展示されている部屋へ辿り着いておりました。

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部屋の後方から。暗い礼拝堂の中、一点光を浴びて鎮座する祭壇画。展示方法も何だか劇的。

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近付いて撮影。暗いせい(?)か、何かボケてる。

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メムリンクの手による「聖カタリナの神秘の結婚」という作品です。中央に座すのは聖母子、その向かって左側に座り、イエス・キリストに向かって左手を差し伸べているのが聖女カタリナです。文様入りの黒と金色のスカートの方です。この写真だと分かりづらいと思いますが、実はイエス・キリストはこの聖女カタリナの左手の薬指に金の指輪を嵌めようとしています。
この聖女カタリナは、伝説によれば、3世紀頃にエジプトのアレクサンドリアに生きた聖人であるとのことです。名家の令嬢で、多神教の時代にあって密かにキリスト教に帰依し、ローマ皇帝に言い寄られるも拒絶、惨たらしい拷問の末に斬首されたという殉教者だそう。
彼女が殊に有名なのは、キリストとの結婚を幻視したというエピソードによると思います。ある時彼女は天国に運ばれてキリストから指輪を与えられ、婚約するという幻視を体験したそう。それがこの祭壇画の中央のパネルの場面です。
聖カタリナの反対側に座す緑色のドレスの方は聖バルバラ。前にも言及したことがありますが、あまりの美貌に塔に閉じ込められて求婚者たちから遠ざけられていたというキリスト教の殉教者です。
彼らの背後に立つ二人の男性は、これも聖人でそれぞれ同じ名前を持つ聖ヨハネ。赤い衣の方が使途ヨハネ、紫っぽいマントに、ちょっと足が見えている方の方が洗礼者ヨハネ。前者のヨハネは有名な黙示録の筆者の方のヨハネ、後者のヨハネはサロメに首を斬られる方のヨハネです。両者ともこの施療院の守護聖人です。
聖カタリナは恐らく実在の人物ではないと思われますが、キリスト教の多くの宗派において広く崇敬を受けられた方だそうです。

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向かって右側のパネル。使途ヨハネが流刑地のパトモス島でキリストの啓示を受けて幻視した天の国と、終末における地上の恐ろしい様子とが描かれています。
使途ヨハネは忘我した様子で幻視の世界に見入っていて、何だか惹き付けられる表情です。

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何か面白い造形の怪物がいた。と思ってアップを撮りました。中央の首だけの黒い魔物は、馬に乗って逃げる人を食べようとしているのかと思いきや、ガイドブックによればそうでなくて、この黒い魔物の口から馬に乗った「死」が地上に飛び出してくるところだそうです。

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向かって左側のパネル。こちらは洗礼者ヨハネのエピソードを描いています。言わずと知れた、洗礼者ヨハネの死の場面ですね。
お盆に載せられた彼の首、そのお盆を捧げ持つ緑色のドレスの美女サロメ。美女サロメはよく見ると二重顎です。それもこの絵が描かれた時代の美の基準の一つでしょうか。
地面に倒れ伏したヨハネの体の首の切断面がなかなかグロく、生々しく、エグい。

と、かなり私好みの祭壇画でした。
特に使途ヨハネのパネルは、ぷりちーな化け物たちがいっぱいでついつい着目してしまう。
しかし古い時代にあってはこうして描かれる地獄そのもののような終末の有様は、見る者にとても恐ろしい思いを抱かせるものだったのでしょう。ぷりちーとか言っている場合でない。


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posted by 綾瀬 at 08:01| Comment(0) | 16年12月ベルギー